病院の母親学級2 〜精神科・心理学・・


全体的にまぁ満足できた母親学級の中で、1番ワケの分からなかった出来事を書いておこう。

ある朝、9つのコースの中の1つの「groupe de parole」というものに出た。

直訳すれば「言葉のグループ」、どうやら親になる事について討論する場らしい。

正直どこまで役立つのか分からないけれど、こういうところ生真面目な私は、参加してみた。

好奇心もあったしね・・。








他の講義の時と同じく靴を脱いでからフローリングの部屋に通され、クッションを背中の後ろに回して床に座ると(私はこのスタイル苦手・・)、病院側のスタッフ3人が自己紹介を始めた。

それぞれ、精神科医か心理学者らしい。
(私にはこの違いがよく分からない。)

本当は助産婦さんにも参加してもらう予定だったのに、ヒマな人が居なくて誰も捕まらなかったという。

その場に居合わせた妊婦さんは私を含めて8人ぐらいだろうか。

そのうち、おそらく中国系の若い女性だけが、ご主人(かパートナー)に付き添ってもらってきていた。








3人のスタッフの自己紹介が終わると、私たちの番になった。

名前だけでなく、「今日ここに来た理由」を言わなくてはならないらしい。

なんとトップバッターだった私は、困ってしまった!!

だって・・・「ここに来た理由」なんて、特にないもん・・・。

でも相手が心理学者&精神科医なんだから、何かしら悩みをぶつけた方がこの場的にはいいんだろうなぁ。

私の悩みってなに?困っていることってなに??








あ、あったあった!!

私は正直にもともとは女の子が欲しかったこと、今は男の子を生み育てるというヴィジョンに慣れてそれを楽しみに思える様になったけれど、自分自身が女系家族なので男の子と母親のちょうどいい距離の取り方がよく分からない、という事を伝えた。

私の左隣に座っていたサバサバした雰囲気の女性はすでに息子が2人居て、今度生まれてくるのも男の子。

3人の子どもを平等に育てるコツがあれば知りたい、と言う。

でもその他の人達はそう具体的な理由を述べる訳でもなく、中国人の女性は「初めての出産と子育てなので、来ました」とだけ、言っていた。

今思えば、彼女の様に発言しておくのが賢明だった気もするのだ。








全員の自己紹介が終わると、進行役の精神科医(か、心理学者。どっちだったか忘れた・・)はまず、私の提示した問題を取り上げた。

でも・・・なんだか書籍の一節を読むかの様に決まりきった言葉をとうとうと言いあげる感じだったので、どうも私の頭に響いてこない。

途中で遅れて入室してきたカップルのうちの女性の方が何か話したげに何度も手を挙げているのに、そちらにも全然気づかずに演説(?)が進んでいく。

この人、私達に討論させるよりは自分が喋りたいのね・・・。








私が相づちを打つのにいいかげん疲れてきた頃に話が変わり、今度は私の隣の女性への回答(?)が言い渡される番となった。

この妊婦さんたったさっき進行者の話をうまく遮って参考になりそうな事を言ってくれたので、私も折り合いを見て、なんとか自分の思った事を発言する。

このあたりから、周りの妊婦さん達もようやく意見を出せる雰囲気になってきたと思う。
(注:ほとんどがフランス人なので、皆「人前で意見を言うのが恥ずかしくて」発言できなかったのではありません。ただ単に、進行者の雰囲気に押されて口が挟めなかっただけ・・。)

この時、私は思ってもいなかったのだ。

これからしばらくしてまた、話題が自分の方に戻ってくることになろうとは・・・。








そのきっかけは、前々からずっと発言だった女性が
「私も、女の子が欲しかったんです・・・」
と言った事だった。

みんながその続きを待っているのに口ごもったかと思うと沈黙が流れ・・・表情も崩れ・・・涙が流れ出す。

事態を察したその場の妊婦ほぼ全員が
「男の子っていいわよ!」
とか
「母親になつくのは女の子より男の子ですよ」
とか慰めの言葉をかけるけど、一度出てしまった涙はそう簡単には止まらない。(これは、私も経験上知っている。)

中国系と思われる女性も
「私は逆に男の子が欲しかったのに、女の子を授かりました。
教わった時は残念だと思ったし、つわりに苦しんでいる時は『もう!』って思っちゃいます」
とカラッと本心を言って、やっぱり彼女を慰めようとしたけれど、それも効果がない。

結局は、この悩み(?)の言いだしっぺの私が
「私なんて25年も前から女の子が欲しかったけど、赤ちゃんが男の子と知ってから色々な人と話したり、男の子用の服を家に飾ったりして、今はこの子の生まれるのがすごく楽しみになっているんですよ」
なんて言う事になってしまった・・。

今の私にとっては、男の子がやってくるのが楽しみなのも事実なら、それがやっぱりどこか不安なのも本音。

両方の気持ちを抱えながら、でも幸せな毎日を過ごしている。

精神科医達の手前では心配な点をクローズアップして語り、泣いているこの女性の前では嬉しさをアピールしているのだから、矛盾して見えるけどね・・・。








ここからまた、進行役の女性の説得(?)が始まった。

だけどそれでも、女の子が欲しかったという女性の悲しそうな表情も気持ちも、元には戻らない。

途中でこの巨大病院の精神科医の名前を聞いたりして彼女なりに問題解決方法を探っているのだとは思うけど、私はここまでの一連の流れを思い出して、だんだん焦ってきてしまった。

だってもう、その時点ですでに12時5分。

この「討論会」は11時に始まり12時半に終わる事になっているのに・・・このままじゃほぼ全ての話題が「女の子の代わりに男の子を授かってしまった」私達2人のために独占された事になってしまう。

これじゃ他の出席者に申し訳ないよ。








私の右隣の女性は、主題を変えたかったのかな?

進行役女性の話を遮って自分が女系家族の出である事を話した後に、
「私は毎日すぐにイライラして、大声で周りの人を怒鳴りつけてしまいます。
赤ちゃんに悪いと分かっているのにやめられないんです」
という、これまでとは全く関係のない話を持ってきた。

私にしたら「いいね!」という感じ。

もうそろそろ、あの話は終わりにしてほしい・・・。








でも、その願いは無駄に終わった。

先ほど泣いてしまった女性のパートナーがどうしても赤ちゃんの性別に対する失望話を掘り下げたいらしく、何度も話を戻してしまうのだ。

そしてあげくの果てには
「この3人の女性が望まぬ性の子どもを授かって、『恐れ』を抱いている原因を根源までさかのぼって探らなくてはいけないと思う」
なんて言いだした。

えっ!!!








「3人の女性」とはどう考えても、彼のパートナーと、私と、中国系の女性のこと。

私ともう1人の女性はどう見てもそこまでの打撃を受けていないのに・・私達にも、精神分析を受けるよう勧めているの??。

面倒くさいので、私はそれには何もコメントしなかった。

だけどまたここで、進行女性の話がこの問題に戻ってしまった・・・。(この時、私はすでにほとんど何も聞いちゃいなかった・・)

そしてそれが終わりに近づいてきたと思ったら・・・今度こそ話題が変わるのかと思ったら・・またこの男性が同じ事を言うではないか!!

しかも私の方をばっちり見ながら!!!!








さすがにカッと来て(?)反撃(?)する。

「私は確かに女の子が欲しいと思っていたし、今でも男の子を生み育てるのに不安があります。
でもその理由は、自分でもよく分かっているんです。
自分自身が3姉妹だった事とか、小さい頃の友達はみんな女の子だった事とか、そういったとても分かりやすい原因しかないんですから。
だからこの件については、私の心理状態をこれ以上深く探る事はできません!!
具体的な心構えについて知りたいと考えてああ発言しましたが、私は自分自身に、精神分析を受ける必要は感じていません」

それでも男はくじけない。

皆がそろそろ話題転換しようとしているところだったのに、ようやく私が反応したのだから、これはいいチャンス。

彼が何かを言おうとしたところで・・・進行役の女性が無常にも言った。








「今日のところは終わりにしましょう。
もう12時15分ですから」

えっ?!「12時半まで」のはずなのに??

しかも、開始自体が15分も遅れていたのに??

きっとこの人も、同じ話題の繰り返しに飽き飽きしてきたんだろうな。

あれだけ喋ったから、自分の言いたい事は全て出せたんだろうし(笑)。








結局、この討論会(?)で私が得た教訓は2つだけ。

・親が「子に良かれ」と思って自分にとっては楽しくない遊びを無理にしても、それが子どもに伝わるのか、盛り上がらない事がある。だから男の子のするゲームなどに興味が持てなかったら、無理して合わせる必要はない。(これはもうじき3人目の男の子を産む女性の話。)

・男の子が生まれるのだから、女の子の場合以上に父親の介入が重要。(これは司会兼演説担当の女性の話。基本的な事だけど、なんとなく忘れていました・・。)








本当はこの日はディノも来る予定だったのに、朝どうしても起きれない様子だったので
「そんなに大切な講義でもなさそうだから、留守番していたら?」
と言って、家に置いて来ていた。

でも・・・この集まりって無意味だったから、はっきりいって、ディノ来なくてラッキーだったね。

彼にこの話をしたら
「面白そうだから、行けば良かった」
なんて冗談を言って笑っていたけれど。








私は標準的な日本人。

精神科医(か、心理学医?)にかかる」のは私にとってはかなり特別な事であり、最初に望んでいたのとは違う性の子どもを授かったぐらいでする行為では無いのだ。

フランス人にとっては、特に一部の人にとっては、普通の日常なのかもしれないけれど。

精神科とか心理学だとか、自分にとっては縁遠すぎる世界に触れかけ、しかも考え方の全く異なるカップルと話す機会を持ち、日仏の文化差や個人間の感覚の違いにヤられ、退屈で時間の無駄ながらも貴重かもしれない経験をしたと思っている、私なのでした。


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